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エステからのひらめき

なにしろ数年前まで「更年期がきたら女は生エストロゲンを補充すべし」と言っていた医学界が八O度方向転換、今では「ホルモン補充の必要なし」と説いている。 いったい何を信じたらいいのか、ふつうの女性たちは困ってしまう。
たぶん女性たちは、もう二度と医学的な情報を鵜呑みにはしなくなる。 しかしマスコミは、の情報を浴びせかけてくるだろう。
ただし、そうした研究やこりもせずに新しい「提言」や素晴らしい「発見」調査のほとんどは不正確で、提言のほとんどは間違っているか、せいぜい部分的に正しいにすぎない。 そもそも、私たちが何かを「知っている」というとき、それは生物学的に何を意味するのか。
ふだんの私たちは、知識とはイエスかノで割り切れるものと考えがちだ。 知っているか、知らないか。
電灯のスイッチと同じである。 「入」かか。
しかし医療の世界は、そう単純に割り切れない。 私たち「切」医師は患者を試験管に入れて検査するわけではない。

実生活のなかで調べなければならないし、実生活では数え切れないほどの要素が私たちの健康に影響を与えている。 食生活やストレスから来る影響などだ。
私たちはそういう影響を推測して、しかるべき薬を処方している。 もちろん、できることなら喫煙や飲酒、食生活などの影響を排除して研究したい。
個々のライススタイルの違いが問題にならないほど多くの患者を集められればいいが、それは不可能に近い。 研究や統計の値が不十分なら、私たちは素直に「わからない」と言うべきだし、多くの医師はそうしている。
だが、そうでない者もいる。 人は不確実性を好まないからだ。
これには神経生物学的な根拠がある。 「わからない」という状況を好む人聞はいない。
私たちの神経ネットワークは素早い決定を下すようにできていて、それができないと不安になる。 だから不安をうち消すために、何でもいいから最速で決定を下そうとする。
不安を消すためなら、間違っていてもいいから早く結論を下したい。 いわゆる「早合点」である。
人にそういう傾向があることは、心理学の実験で繰り返し確認されている。 医者も人間だから早合点しがちだ。
医療ジャーナリストや新聞記者、そして患者も早合点したがる。 更年期とホルモン療法の関係は、この早合点の典型だった。
ホルモンが女性の身体にどう働くのか、確かなことは誰にもわかっていなかったのに、医師たちは確かな事実と一定の可能性の違いを無視してしまった。 そしてホルモン剤の需要を増やしたい製薬業界の意向に押されて早合点し、統計的な推測を真実と思いこんでしまった。
だから更年期を迎えた女性にはホルモン療法が有効だと考えられた。 しかし、これに疑問を抱いたのがNIH(国立衛生研究所)初の女性所長バナディン・ヒリーだった。

医学研究の分野にも根強い性的な偏見や差別を解消すべく、彼女は史上最大かつ最も意欲的なプロジェクト、ウーマンズ・へルス・イニシアチブ(WHI)を立ち上げ、そして成功させた。 WHIは、五O歳から七九歳までの女性を対象に心臓病や乳がん、結腸がん、ホルモン療法、骨粗しょう症の経過を観察する全国規模の調査研究だ。
すでにホルモンに関する部分は終わっているが、その他の研究は続いていて、今後数十年にわたり女性の健康について重要な情報を提供するだろう。 六億二五OO万ドルの当初予算で、全国四Oの研究センターで一六万人以上の女性を被験者としている。
ホルモン療法に関する調査にも数万の女性が協力した。 しかも彼女たちは、無作為抽出でホルモン療法を受けるグループと受けないグループに分けられた。
ここが大事なポイントだ。 ホルモン療法を受けるのが当然とされていた時代に、素晴らしく多くの女性が医療と公衆衛生の進歩のために、進んで実験台を買って出て、その半数はあえてホルモン療法を受けないという選択肢を受け入れたのだ。
彼女たちの勇気と献身がなければ、今でも更年期の女性には例外なくホルモン療法が施されていたにちがいない。 科学的に正しいことをするのは恐ろしく困難で費用がかかり、「立証されたこと」と「見込みのあること」を混同するのがいかに危険かを、WHIは明らかにしている。
実際、更年期の女性にホルモン療一般に、女性は更年期まで法が必要だという「見込み」は科学的に合理的なもののように思えていた。 男性よりはるかに健康的だが、更年期になるとその差がなくなる。
とくに心臓病ではそうだ。 そしてホルモン療法を受けている女性では、実際に心臓病のリスクが減っていた。

ここまでは事実だ。 しかし、「だからすべての更年期女性にホルモン療法を」という結論は早合点だった。
なぜか。 WHI以前の研究者たちは、長期にわたるライフスタイルが健康に及ぼす影響を見逃していホルモン療法を受けている女性と受けていない女性では、ライフスタイルに大きな違いがあった。
前者は概して健康や運動への意識が高く、食事にも気をつかっていた。 だから、他の条件は同じでご内ノよもやも後者より長生きした。
心臓病や脳卒中、アルツハイマー病のリスクが減ったのは、エストロゲンではなく、ライフスタイルの違いが原因だった。 そういうライフスタイルをコントロールするのは大変だし、その効果を統計的に判定するのは相当なたいていの研究者数の協力者(被験者)を必要とする。
当然、莫大な金と長い時間がかかる。 だから、はそこまでやらずに、「見込み」で適当な結論を出してしまうものだ。
しかしWHIは妥協しなかった。 だからライフスタイルによる健康状態の差を明らかにできた。
いま私たちにわかっていることではWHIのおかげで、私たちは更年期について何を、どこまで知ることができたのか。 自然な更年期は四O代前半から五O代後半までのどこかで始まるが、アメリカ女性の場合は平均すると五一歳で始まり、四年ほど続く。

ただし、現実にこの「平均」にあてはまる女性はほとんどいない。 一人ひとりの女性の経験とは違う。
更年期の始まる時期も終「平均」は統計的な処理の産物であって、わる時期も、その症状の強さも人さまざまだ。 「平均」からはずれているからといって、何か問題があるなどとは考えないでほしい。
本当に更年期の症状と言えるものは数えるほどしかない。 ほてり、寝汗、気分変動は半数以上の女性やりつが訴える。
腫乾燥は、およそ三人に一人が訴える。 泌尿器系の問題も少し増える。
寝汗だけでなく、不眠症を訴える人もいる。 性的満足感については、更年期を通じて減少する人もいれば、かえって高まる人もいる。
ほてり(のぼせ)温かな血液を身体の中心部から表面へと運ぶ皮膚の血管の突然の膨張によって起こる。 これは暑いときに身体を冷やすための正常なメカニズムだが、更年期にはエストロゲン量の変化によって、このメカニズムがいくらか狂っているかもしれない。
皮膚の温度は、ほてりの時期に二度から三度は上がることがある。 そんな状態はふつう五分ほどで終わるが、時には三O分も続くことがある。

また、ほてった身体を冷やすメカニズムは非常に効果的なので、ほてりが長引くと身体が冷えて震えることもある。 寝汗寝汗は睡眠中に起こるのぼせだ。
寝ているときには体温が少し下がっているから、ちょっとの温度変化にも身体は過剰に反応する。 布団をかけているだけで、日中よりも汗をかきやすい。

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